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ガンの再発や転移再発と転移は本質的には同じでがんの病態です

「再発」「転移」というと異なった現象だと思われますが、再発と転移は本質的には同じでがんの病態です。どういうことかというと治療前の画像診断などでがん巣が原発とは違う部位に発見されると「転移」、術後に転移が認められた場合は「再発」と区別しているからです。

治療前から画像上わからないほど小さなながんが残存している

手術など初回治療を受けた後に数ヶ月から数年で別の部位で原発巣と同じ性質(タイプ)のがんが「転移」として見つかることもあります。治療前から画像上わからないほど小さなながんが残存していたことになります。「遠隔転移」でも「多発転移」でも原発巣と同じがんですから「再発」といいます。

放射線治療や抗がん剤治療で画像上見えなくなっていたがん巣が再び増殖、増悪します。新たに別の部位に発生したりすることも「再発」といいます。

がんは最初にできた原発巣と原発巣から転移したがん巣に分けられます。原発のがん細胞は増殖するだけでなく、周囲の組織へ浸潤します。進行した場合、発生した臓器により胸腔(きょうくう)や腹腔(ふくくう)などでは臓器からがん細胞がこぼれ落ちて播種(はしゅ)転移します。血液やリンパ液の流れに沿って、別の臓器で増殖します。これが転移と呼ばれる現象です。

がんが発見されたときステージ(病期)に関係なくすでに、微少な転移があっても不思議ではなく、ステージが進行すると転移している率は高くなります。

手術後、再発するかしないかはわからない

遠隔転移が認めらえない場合、根治手術の適応になります。微小な転移でも取り残すと、原発巣を摘出、切除しても転移巣が増殖、増悪してきますのでステージにより原発のがん組織、所属リンパ節の郭清も含めて周囲組織を一塊(en bloc)に切除、摘出します。手術の術式は臓器別にほぼ確立しています。

確実にわからないだけで、手術が終わった時点でがんが治るか治らないかすでに決まっていると言っても過言ではありません。ここ20年くらいで拡大手術から低侵襲性になってきました。手術は胸腔、腹腔鏡手術、ロボット支援手術などが主流になりました。治療成績(治る、治らない。再発するしない)は従来の開胸、開腹手術と変わらないと考えられています。しかし、がんの手術は、まず、がん巣を確実に切除、摘出できる根治性が最優先されるべきです。がん巣を安全に確実に取り切れることができるなら、そのとき腹腔鏡手術など低侵襲性を考慮することになります。

がんの再発は、初回治療を受けた後にがん細胞が残存していたり、がん組織が発見された時、すでに画像検査ではわからない微小な転移が起こっていた可能性があります。細胞レベルでは原発巣とは別に体内に残っていたことになります。わずかに残っていたがん細胞が再び増えて増殖してきます。

治療後さまざまなタイミングでCTやMRI、PET検査などで経過観察(サーベイランス)します。しかし、検査の限界があり2~3ミリのサイズでは発見することはできません。さらに、その何百分の一のサイズでは、がん細胞が転移していた場合でもこれはどんな検査でも発見できません。

手術後、「局所再発」、「領域再発」、「遠隔再発」などの再発がもし術後おこったとしたら、それはすでに手術の前に画像診断や腫瘍マーカーなどでもわからない微小な転移がすでにあったと考えられます。ただし細胞分裂の過程は様々な要素がありますのですべて一定の速度とは限りません。分裂が驚くほど早いがん細胞もありますし、1年間たっても大きさが変わらないがん巣(組織)もあります。

局所再発:最初の原発がんと同じ場所あるいはごく近くに再発します。
領域再発:原発がん発生部位の近くのリンパ節、組織で成長したときに再発します。
遠隔再発:原発がんの発生部位から離れている器官または組織に遠隔転移します。

【目次】
がん再発・転移について
リンパ節転移
再発がんの治療は、きわめて困難になります
早期発見が難しいとされる膵臓(すいぞう)がん
検査を受けない期間も必要「早期に再発を発見する意味は少ない」
遺伝子レベルで転移のメカニズム解明が進む
治療のやり過ぎは逆効果
がん治療アドバイザーによるサポート(がん治療相談)

5年生存率の意味

術後、何らかの自覚症状がなくても、「再発・転移」の不安を感じている方は多いと思います。よく5年生存率という言葉を聞きますが、微小転移のほとんどがこの期間にわかるまでに増大すると考えられているからです。現状は、5年経過して、がんの病変が確認できなければがんは治癒したと考えられます。乳がんでは、長いと10年以上経ってからがんが再発するようなケースもあります。

5年生存率はがんと診断されたあと5年間生存している人の割合です。治療効果の目安として使われています。しかし、個々の患者さんについて将来、再発するかどうかは、現在の医学水準(ゲノム検査など)でも確実に予測することはできません。ステージ(病期)によって再発率も異なることだけです。

初回の治療では、再発や転移を防ぐ目的で抗がん剤を使用するレジメン(治療計画)があります。プレシジョン・メディシン(精密医療)とかファンデーション・ワン(がん遺伝子パネル検査)などありますが 革新的な検査、治療であっても持続的な奏効をもたらすがんの治療法は存在しません。

念のための抗がん剤は怖いです

過去の多くの患者さんの症例経験により、現時点で最良の治療法は、ほぼ決まっています。手術で、肉眼的にはがん組織を切除、摘出しても、目にみえないとりのこしがあるかもしれないし、細胞レベルでは領域を超えて転移があるかもしれません。そのために外科治療後に抗がん剤による化学療法が行なわれます。

再発予防のためですがそれでも再発する人もいますし、しない人もいます。再発しない人は有用性があったことになりますが、元々がん細胞が存在しなければ再発しません。組織学的グレード分類に関係なく、がん細胞が存在しなくても抗がん剤をする場合は多いです。小さながん(細胞レベル)や塊になっていないがんでは抗がん剤の有用性はあることになっています。しかし、抗がん剤は正常組織にも影響を与えます。そのた投与間隔をあけて行い、投与量、投与速度も決まっています。

リンパ節転移 

リンパ節転移とは、がん細胞がリンパ管を通って他の部位に転移することを指します。ヒトの体液の循環は、血管系(動脈・静脈)リンパ管が担っています。 血管系では動脈が毛細血管に移行し、その内約90%が直接静脈に流入して心臓にもどって循環します。

毛細血管から漏れ出した水分(アルブミン・細胞からの老廃物)など間質液と呼ばれるリンパ液となり、全身に張り巡らせたリンパ菅の中を流れています。 所々に主要なリンパ節があり、リンパ節では病原菌などの処理、リンパ液のろ過をして合流を繰り返し静脈と同様に心臓の近くまで戻ってリンパ管は太い静脈に流入し、体液の循環に戻っていきます。

顕微鏡での病理細胞診

がん細胞は、酸素が乏しい環境で増殖して組織になり、酸素が乏しいリンパ管に入り込んで原発巣の近くのリンパ節に転移します。血液の流れが豊富な肺や肝臓、骨などの場所にリンパ液、血液の流れに沿って転移することが多いです。

所属リンパ節(領域リンパ節)では防ぎきれない

リンパ節は、首筋、わきの下、鼠径部(そけいぶ)のように、リンパ管が枝分かれする部分に集まっています。 免疫反応を調節する働きがありリンパ系の中に入った異物やがん細胞は、リンパ節で阻止します。 がん細胞の不均一性があるために免疫機構から逃れて転移するがん細胞もありさまざまなタイプのがんにおいてゲノム解析により解明されています。

術後、浸潤している症例では、明らかに所属リンパ節(領域リンパ節)に転移しています。また、転移した症例では、病理検査(顕微鏡などで組織検査をする)で、所属リンパ節に転移は発見できなく、通り抜けた痕跡もわからないこともあります。それだけリンパ節転移は治療における重要な情報で、多くの場合,予後と相関します。

手術では目に見えない小さな転移があるものと想定して、原発巣の臓器の切除、摘出と所属リンパ節の郭清をします。術後の病理検査でも、リンパ節に転移していなことが確認されても、のちに転移がわかることもあります。

これは、自覚症状がなくても画像診断などでがんと確定診断できる大きさは5mm〜10mmです。 固形がんの原発巣の場合10年から20年かかってこの大きさになります。転移巣は増殖がはやくがん細胞は、原発巣の部位など発見された時点で所属リンパ節では防ぎきれなく、既にリンパ節を通り抜けて原発巣以外の違う臓器にリンパ菅、血管を介し転移していたと推測されます。

再発・遠隔転移の治療法は限られる

がんは、体のどこの臓器や組織にも発生します。顕著な自覚症状がなくても、がんは組織を傷害しながら増殖して、周囲の血管やリンパ管などにもがん細胞が浸潤します。血管やリンパ管に浸潤したがん細胞は、血液やリンパ液の流れにのって全身に広がり転移しやすくなります。遠隔転移と確定診断されると、すでに全身病ですので病期は「ステージIV」の進行度になります。手術で転移巣をいくら取り除いても患者さんの利益になることはありません。(大腸がんの肝臓・肺転移は手術の適応になる場合があります。)

リンパ節への転移以外に、がん細胞が原発巣周囲へ浸潤して血管壁を突き破り、血管内に侵入します。血液を介して転移する「血行性転移」があります。臓器の壁を突き破り原発巣の臓器からがん細胞がはがれ落ちて胸腔や腹腔に散らばるように広がる播種(はしゅ)があります。肺を包む胸膜(胸腔)に原発からの転移があると「胸膜播種」といいます。腹膜に転移があると「腹膜播種」などと呼びます。胸水、腹水(体液の貯留)の要因になります。また、原発巣から隣接する他の臓器に広がっていく「浸潤」があります。

転移のメカニズム

転移のメカニズムは、がん巣(組織の塊)中には、コラーゲン(繊維状のたんぱく質)などの繊維組織を分解する酵素を作り分泌する能力をもった細胞がいます。周りの組織を分解する能力があるため周囲へ浸潤します。血行性転する能力があるがん細胞は血管壁から血管内に侵入します。血流に乗って血管が豊富な肺、肝臓、骨髄などの組織の血管に微小な塊を作り血管の内皮を破って原発以外の組織に侵入し転移巣を作ります。

原発がんは多段階発がん(長い間に徐々に遺伝子が誘発されがん細胞になります)、ドライバー変異(がん細胞の増殖・増悪を促進する変異遺伝子)が加わりますので、原発がんが発見される前に転移していることもあり、がんの再発や転移を完全に防ぐことは難しくなります。

再発がんの治療は、きわめて困難になります

再発は、原発巣から手術した後でも、肺、肝臓、脳、骨などさまざまな部位に起こり得ます。手術前から転移していたことになります。 転移巣が増殖するためには大量の栄養や酸素が必要にななるため、新たな血管(新生血管)を作ります。

がん再発治療が難しい理由

がん自体が非常に複雑な疾患であるため、異なる種類の細胞に由来する多様な疾患群であり、それぞれのがんはさまざまな形態、成長速度、浸潤性、転移性を示します。そのため、同じ種類のがんでも、患者さんごとに異なる個別化治療が必要になる場合もあります。

再発に対する治療はより困難になることがあります。再発した場合には、治療の選択肢が限られ、がんの進行を抑えることが難しい場合があります。

がんはしばしば細胞内や遺伝子レベルでの変化によって引き起こされるため、がん細胞が変異し、抗がん剤に対して抵抗性を獲得します。

肺がんは脳、大腸がんは肝臓へよく転移します。転移先の組織が分泌するサイトカインの一種ケモカインとよばれる物質と、がん細胞に発現するケモカインと結合する受容体が働き合って、集積するプロセスが連続的に起こることにより転移が成立します。どの部位に転移したがんでも、原発のがんと同じ性質を受け継ぎます。

例えば、肝臓がんが肺に遠隔転移した場合、肺にあるがん巣は原発の肺がんではなく原発の肝臓がんの細胞と同じ性質を受け継ぎます。転移病巣だけが判明する原発不明がんも存在します。

胃がんの進行度 胃がんの場合、がんの深さが粘膜および粘膜下層までのものを「早期胃がん」、深さが粘膜下層を越えて固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。がんが胃の壁の内側(上皮)から外側(漿膜)に向かって深く進むにしたがって、転移する確率が高くなります。

遠隔転移した再発がんの場合、普通は再度の手術の適応にはなりません。転移が認められた時点で、すでに全身病になっていると判断します。これが再発がんの治療の難しい理由です。見える転移巣を切除しても、CT画像などの検査でも10mm以下の転移の病状はわかりませんので、さらに新しい転移巣が出てくる可能性が高いからです。

大腸がんの肝転移の中には手術するケースもありますが、それでも転移した場合、治癒率は20%以下の確立です。門脈から流入した血行性転移で肝臓内に多発転移あるため切除できない症例もあります。

原発巣の周囲を拡大切除、摘出しても、あとになって原発臓器や隣接するする臓器、リンパ節に再発してくる場合もあります。胸膜、腹膜播種などは局所再発として扱われていますが治療では、遠隔転移と同じとみなされます。なぜなら遠隔転移同様に原発の臓器の外に転移しているからです。

遠隔転移と局所再発、どちらが多いかといえば、圧倒的に遠隔転移です。術後、他の臓器に転移がわかることは珍しいことではありません。手術前に既に微小転移していた可能性があります。標準治療の術前、術後の補助化学療法の有用性は少ないないということにもなります。この時点で局所病から全身病になります。抗がん剤の補助化学療法は再発の予防ではなく、再発を遅らせることを目的としている場合もあります。
 
再発した場合は、根治を目指すことは困難になります。がん細胞の多様性があるからです。症状を和らげる対象療法、がんの進行を抑制するための抗がん剤レジメン(抗がん剤を含めた、輸液、支持療法など)が決まっています。

再発がんの手術の有用性があるケースは、がん巣が限局していて多発転移がないと見込まれる場合だけです。それでも最近の傾向として再発がんに対して、手術適応になる症例が少ないように思われます。

標準治療では、転移したがん細胞に有効な薬物療法・放射線療法を選択することになります。 標準治療というのは、今までのデータの積み重ねで決められたものです。

がんの再発は、初回治療を受けた後にがん細胞が残存していたり、新たに発生したりするため、再発に対する治療はより困難になることがあります。治療によって再発を遅らせることはできますが、再発した場合には、治療の選択肢が限られ、がんの進行を抑えることが難しい場合があります。しかし、近年のがん治療の進歩により、再発に対する新しい治療法が開発されつつあります。

自身の状況に合わせた最適な治療方法については、専門的な知識や判断が必要であるため、必ず主治医や担当医と相談することになりますが患者さんと医者、医療機関との橋渡し役になりたいと思っております。悔いの無い治療を心より願っております。

早期発見が難しいとされる膵臓(すいぞう)がん

ほかの部位の死亡率は横ばいなのに、膵臓がんで亡くなる人は、増え続けています。食道、胃や腸となどの管腔臓器は筋肉層がありますので、筋肉層で浸潤をある程度抑えられます。その期間に発見されることで有効な治療手段が選択されます。しかし。膵臓など実質臓器は中が詰まっている臓器です。

現代においても膵臓がんの治癒が難しいのは、筋肉層がないことが大きく影響しています。筋肉層がないため周囲の臓器に浸潤(がん組織が周囲に染み出るように広がっていくこと)しやすく膵臓が体の深部にあるため、血管やリンパ節が集まっていますので、他臓器に転移しやすいのです。転移は悪性化の最たるものです。

膵臓がんは5年生存率が10~15%とほかのがんに比べて極端に低く早期発見は難しく進行が速いのが特徴です。詳しい理由は不明ですがすい臓がんで亡くなる人は、増え続けています。発見されたときにはすでに周りの臓器に転移しているからです。

早期で発見するためには造影剤を使ったCT画像を用いて検査しますが、がんが進行するまで自覚症状に乏しく、数ミリでの発見は難しいとされていました。確定診断のためには「内視鏡的逆行性胆管膵管造影」「磁器共鳴胆管膵管造影検査」などがありますが、 撮影のために使用する「造影剤」には副作用リスクもあり、生検(腫瘍の組織の一部を採取して診断を行う)も含めて検査の難易度は高いです。

結果は、まだ出ていませんが造影剤を使わないCT画像を用いたがんの所見などをAIに学習させる研究は行われています。

検査を受けない期間も必要「早期に再発を発見する意味は少ない」

手術でがん巣を摘出できて、その時点で再発の心配はないと言われた場合、定期的な検査を受けることは重要ですが、がん再発を早期に発見することが必ずしも意味があるわけではありません。なぜなら、がん細胞が検査で検出可能なサイズに成長するまでには時間がかかるため、検査を受けない期間も必要となるからです。

治療後2年以内の再発は進行がはやい

例外はありますが、術後2年以内に再発したものをいくら切除しても、短期間で何度も手術を受けるのは無意味ですし、患者さんの不利益になります。
※薬物療法、放射線療法で画像上見えなくなっても同じことです。術後の経過観察を受けない期間も必要と考えます。勿論必要最低限の検査は必要です。

もし、原発巣以外の臓器に転移が出てきたとしたら、それは、手術前に一次転移が残っていた可能性が高いです。微小な転移は現在の医学では手術直後の摘出した標本を病理検査しても転移するか、しないか、また既に転移しているのか、わかりません。

手術後、抗がん剤、放射線治療を受けても再発するのか、しないのかわからない

しかし、中にはがん細胞の分裂速度が極端に遅い細胞もあります。5年間の間にもほとんどがんの病変の大きさが変わらなく様々な要因でゆっくり成長するがん細胞もあります。このようなケースでは、がん細胞の成長がゆっくりしているので直接命にかかわることはありません。
※稀な例としては、あるときから急激にがん細胞の増殖速度が速くなる場合もあります。逆に転移を起こしていても、ある時期から増殖が停止状態になる可能性もあります。
 
では仮に短期間に再発がんが発見された場合はどうすれば良いのでしょうか。再発がんは早く発見しても治療は大変むずかしく、現在の医療(標準治療)では完治させることは困難になります。再発がわかった時点で難治性のがんになります。「早期発見」、「早期治療」という言葉がありますが、それは原発がんに対しての意味です。

手術後に再発の定期検査はほとんどの場合、意味がないと言っても過言ではありません。勿論必要最低限の検査は必要です。何らかの自覚症状がでてから検査をして再発がわかって治療した場合と、無症状なのに定期検査などで再発が確認され治療した場合を比べると実は延命効果はあまり差がないのです。

再発予防の抗がん剤、放射線治療は有用か

なかには術後、再発があるのか無いのかわからないのに抗がん剤療法を予防目的として行う場合もありますが、ほとんど患者さんにとっては利益はありません。あきらかな場合を除いて予防的抗がん剤療法の有用性の効果については明確な証明(明らかにエビデンスレベルが高い)とまでは言い切れません。

分子標的薬でも同じです。場合によっては放射線治療を再発予防目的で行うこともあります。限度を超えて照射はできませんし広範囲に照射もできません。再発しなかったのは放射線の有用性があったのか、それともがん細胞が照射場所に元々無かったのかそれもわかりません。治癒を目指した治療では有用性はありますが予防効果を期待する場合には、一概に有用性があるとはいえません。

再発検査の意味

実際はほとんどの医師や医療機関は術後定期的に再発の検査(経過観察)を受けるよう指示し、患者さんも定期的に検査を受けます。繰り返しになりますが、 無症状で定期検査で再発が分かって治療をはじめても、痛みなど自覚症状が出たあとで、治療を進めても治療成績(生存率)は変わりません。定期検査を続けていると、自覚症状もないのに再発を発見され、抗がん剤療法を勧められることになりますので、その間に受ける精神的ストレスは大変です。このことを医師ははっきりと患者さんに伝えることが大切だと思っております。

例外はありますが、納得するまで説明を受け、定期検査の期間を6ヶ月あるいは1年とか自分で決められたらいいと思います。検査、治療を受ける側も充分承知して自分で検査、治療法を選択するようにしないと本当の意味での医療というものは実現しないと思います。

患者さんが本当にききたいのは、今後「自分はどうなるのか」ということです。信頼する医師の本音の意見(opinion)をききたいです。

遺伝子レベルで転移のメカニズム解明が進む!

がんの再発や転移転移のメカニズム

所属リンパ節に転移があっても、他の臓器にかならずしも転移するとは限りません。

悪性のがん細胞は基底膜(生物において、細胞の外に存在する不溶性物質)をやぶり浸潤します。がん細胞が血管やリンパ管の中に入ります。血流にのって血流の豊富な臓器に血管壁の血管の内皮を破って原発以外の組織に侵入し転移巣を作ります。そこで増殖をします。

ここまでは転移のメカニズムがわかっていますが、がん細胞が基底膜にでるためには“タンパク質を分解酵素する特殊な酵素”を作り出さなければなりません。また他の臓器に転移する場合でも特殊な酵素を作り出さなければ転移は成り立ちません。※タンパク質を分解する特殊な酵素(コラーゲンなど)の全容はわかっていません。

血流の中にがん細胞があってもかならずしも転移するとは限りません。しかし原発が仮に早期の状態で発見されても、がん細胞がすでに特殊な酵素を作り出し転移している場合があります。また、原発の部位やがんの性質などによって、同じステージであっても再発リスクは変動します。

再発が術後発見される場合2年以内が多いのですが、それは原発のがんが数ミリの時点で転移していた可能性があります。 また、それとは逆にリンパ節を広範囲に郭清をする拡大手術をしておそらく転移すると思われた例でも再発、転移をしないで治癒した例も多々あります。


がん幹細胞

がん幹細胞」は、細胞周期(細胞分裂する時の周期はG1、S、G2、Mの4つのステップがあります)を静止期に保ち,休眠状態になりがん幹細胞として維持しています。 静止期には抗がん剤や放射線治療ではがん幹細胞を根絶することはできません。

抗がん剤は、分裂の速い細胞群(細胞分裂が活発分化したがん細胞を標的にしているに過ぎません)を標的にしますが、休眠状態になった「がん幹細胞」は、正常細胞と同じ構造に一時的に変わります。既存の標準治療に対して、治療抵抗性や寛解後の再発などの症例も少なくないのは、このがん幹細胞が関わっています。

分子レベルでの病態解明が進んではいますが、がん幹細胞に対しても有望な新規薬剤の開発が待たれます。既存の標準治療に対して、治療抵抗性や寛解後の再発などの症例も少なくないです。

摘出した臓器やリンパ節を、病理医がスライスして顕微鏡下で詳細に調べて所属リンパ節にがん細胞が認められても遠隔転移しない場合もあります。

所属リンパ節にがん細胞が認められた場合転移していたことになるのか、ならないのか意見が分かれるところです。また乳がんの手術後、術後補助療法(内分泌療法など)をおこなっていても転移はおこります。5年間経過しても肺や骨に転移が出てくるケースも珍しくありません。がん細胞特有な活動期ではなく、静止期を保っているがん幹細胞が関わっているからです。がん幹細胞そのものをターゲットにした治療法はいまだに確立されてはおりません。


遺伝子パネル検査

今でもがん細胞を病理で調べても転移するがんなのか、転移しないがんなのか本当のことはまだわかっていません。
がんは遺伝子の病気である以上、遺伝子レベルでの研究が進むと思われます。遺伝子パネル検査によって、多数の遺伝子を一度にまとめて解析することができるようになりました。 そのうちの一つに「FGFR遺伝子」があります。正常な細胞にもがん細胞に存在しいますが、がん細胞の増殖に欠かせない血管新生などに役割を果たしていることも検証されました。

FGFRの遺伝子異常は、がんの薬物療法の標的として広く知られています。また「RAS遺伝子」も細胞の増殖に関わるタンパク質ですが、タンパク質を作り出す遺伝子に変異が起こると、細胞が増殖変異することがわかっています。ゲノム医療中核拠点病院・拠点病院で開催されるエキスパートパネルも、がんゲノム解析は始ったばかりです。

日本で初めて、肺がん(非小細胞肺がん)の治療薬として認可された分子標的薬は、イレッサ(製造会社:アストラゼネカ)でした。手術、放射線治療ができない患者さんや、抗がん薬治療を受けたあとに再発した患者さんが対象でした。通常よりはやく認可され、当初は驚異的な有効性がありました。

ところが、その後、間質性肺炎という深刻な副作用で亡くなる患者さんが現れ始めその原因がわかりませんでした。 間質性肺炎は重症化すると有効な治療法がありません。原因として線維化により肺全体が柔軟性が失われて酸素をうまく取り込めなくなり呼吸困難といった症状が現れます。

EGFRとは

上皮成長因子受容体です。すべての細胞がもっている分子です。この分子がたくさん発現しているがん細胞は、細胞周期が狂い増殖が促進されます。この細胞周期の信号の伝達を止めてがん細胞の増殖を阻止します。

のちに上皮成長因子受容体のある部分に特定の遺伝子変異があることがわかり、この遺伝子変異がある肺がんにイレッサの有効が認められる結論になりました。

バイオマーカー

患者さんのがんの特性を調べれば、その薬の効果が予測できるわけです。このような効果の有無を判断する目安となる指標を「バイオマーカー」といいます。 徐々にですが、分子標的薬や新薬の投与前に可能な限りゲノム検査をすることができるようになりました。悪性度を決める要因にがん細胞の増殖したり広がったりする速さとか浸潤、転移能力が調べられるようになり、遺伝子変異の指標をもとに、がん細胞を抑制することから個別化治療の可能性が広がってきました。

遺伝子をAIを駆使し適切な分子標的薬を投与する治験が始まっています。光免疫療法でも同じですが、がん細胞の標的細胞を認識する抗体の精度が高ければそれだけ有用性があります。しかし、局所再発にしてもそうですが、遠隔転移するか、しないかの解明には今後、時間がかかると思っています。

がん細胞 悪性度

再発・転移したがんの場合、それぞれの患者さんによって病状がかなり異なるため、標準治療や治療などのガイドラインがある場合でも、その選択は非常に難しくななります。再発・転移がんに有効な治療法を選択することができたらよいのですが今の医学では限界もあります。

がんの細胞診クラス分類

がんの悪性度を調べる検査方法です。針生検や外科生検により採取した細胞を顕微鏡で調べる組織検査(生検)を行い、病理学的に確定診断を得ます。 臓器別のがん取扱規約に記載されています。細胞診クラス分類はクラス1(正常細胞)〜クラス5(悪性、浸潤がんを想定する)まで分類されています。ステージ分類(がんの病期)と、細胞診のクラス分類は違います。

病理学的分類に基づき、悪性度(グレード)が診断されます

摘出した標本から分化度の違い、病理学的分類に基づき、悪性度(グレード)が診断されます。「癌取扱い規約」では、組織学的グレード分類、核グレード分類では、グレード1(低異型度)、グレード2(中間)、グレード3(高異型度)の三段階に分けられます。組織型にかかわらず浸潤がんに適用され臓器別にグレード分類されます。グレードが高くなっ てくるものは悪性度が高くなります。

がん細胞の分裂するスピードが速いものは悪性度が高く、周囲の臓器へ浸潤する能力もあり、遅いものは悪性度が低いと考えられています。悪性度が高い低分化あるいは未分化と呼ばれるようながんですと、細胞の形がもとの組織とはおよそかけ離れた組織像を呈するようになってきます 。

しかし、ある時期、急激に増殖する可能性もあれば、転移を起こしていても、ある時期から増殖が停止する可能性もあります。なかには、転移していても共存可能ながんもあります。治るがんから治らないがんに移行するメカニズムも、ほとんど解明されていません。

治療のやり過ぎは逆効果

インフォームド・コンセント(説明を受け納得したうえでの同意と治療法の決定)

多くの場合、抗がん剤治療をする場合が多いと思いますが副作用は必ずおきます。そのため、何の目的でどういう治療を受けるのかという理解は不可欠です。抗がん剤治療をしなかった場合の見通しも含めてインフォームド・コンセントは必要です。

抗がん剤は全て副作用もあり、有効性はないという医者もいますが、いいとこ取りをして、相乗効果もしくは相加効果(協力作用)を期待してもいいと思いますが、治療のやり過ぎは逆効果になります。

医者はなかなか本当のことを患者さんに言えないことも事実です。そうである以上、賢い患者にならないと自分の身を守ることはできませんから医者に振り回されることなく、納得する治療を受けたいですね。

インフォームド・コンセントは患者さんが意思決定能力があることを前提に進めます。 医療従事者は、その情報が好ましくないからといって、情報の提供を拒んではならないと思います。倫理や道徳的な価値は患者さんと共有しなければなりません。

再発・転移をおこした患者さん、手術ができない患者さん、ステージが進んだ患者さんは、こころのケアが何よりの治療になります。

頼れるがん治療アドバイザーを目指します

がん治療は専門的な知識や判断が必要であるため、画像検査(CT・MRI)病理検査(採取された病変組織の病理学的診断)など踏まえた上で院内カンファレンス(病状検討会)を経て、最終的に主治医や担当医から検査結果、治療法について十分な説明を受けます。それに対して患者さんは内容をよく理解して疑問があれば解消し、納得した上で医療行為に同意します。

患者さん自身が治療に関して理解を深め、納得した上で選択した治療を進めることができるよういつでもサポートできるアドバイザーになりたいと思っております。悔いの無い治療を心より願っております。

がんの治療は、医師と患者さんとご家族の方の密接な連携が何より大切です。インフォームド・コンセント(納得と治療の選択)の普及の一助となれば大変意義深いことと考えております。


がん治療の現状 手術(外科療法)
がん治療の現状 薬物療法(抗がん剤)
がん治療の現状 放射線療法
がん治療の現状 がん治療の難しい理由
がん治療サポート内容 最善のがん治療を受けるために
「がん治療相談」がん治療アドバイザーによるサポート
オピニオン(がん治癒への道)
がん標準治療を選択するとき
「がん標準治療」生存率
がん先進医療(精密医療)
がん免疫療法
がん発生メカニズム
がん再発・転移
がん幹細胞
がん悪液質(あくえきしつ)
がん遺伝子治療
標準治療以上に自由診療の治療成績がよいということではありません
新型コロナウイルの基本知識