がんの先進医療 

プレシジョン・メディシン(精密医療)

遺伝子変異がん細胞の遺伝子を解析し適切な分子標的薬を投与する治験が始まっています。

進行した肺がん、大腸がんを中心に、がん細胞がもつ遺伝子変異を分析し、効果が期待できる薬剤(分子標的薬)を投与します。

人間の遺伝子情報の全体を指す「ゲノム」その情報を使って、その上で「効果が期待できる」と確認できた薬剤だけを使用します。

それがプレシジョン・メディシンです。今、日本でもがん患者さんが治験に参加して、先進地のアメリカではAI(人口知能)を用いて研究が進んでいます。

オーダーメイド治療

効果の期待できない抗がん剤の使用はしないので、よりオーダーメイド治療に近づいた治療といえます。
また必要以上の副作用もさけらます。

治療は、個人レベルの細胞を分析し、遺伝子変異別にそれに適した薬剤を選ぶのですから、今までの治療よりも、効果が期待できますが、予期しない副作用もあります。

また、がん細胞の遺伝子を解析するには保険適用にはなっていません。治療も薬剤(分子標的薬)も一部をのぞいて自己負担になっています。

エピジェネティックスを制御

遺伝子は4種類の「塩基」がつながったものです。 DNAはA(チミン)、T(アデニン)、C(グアニン)、T(シトシン)からなりたっています。

1個の細胞内の遺伝子はわかっているだけで、2万近くあり遺伝子セットの解析にはまだまだ時間がかかります。

細胞は、この塩基の並び方に基づいて遺伝情報を保っていますが、遺伝子のオンオフをコントロールする仕組みが存在しています。

この仕組みを「エピジェネティックス」と呼びます。

全てのがんが、対象にはなっていませんが、ようやく遺伝子を解析し適切な治療をおこなうことができる可能性が見えてきました。

異常増殖するタンパク質に合わせて分子標的薬を投与しますので、将来、臓器別の治療から遺伝子別の治療になるかもしれません。

プロジェクトの概要

全国235の医療機関
製薬会社15社
実施期間(予定)2015年2月2日~2017年3月31日(以降、更新の可能性あり)
対象症例肺がん。消化器がん(大腸、胃、食道、小腸、虫垂、肛門管、消化管原発神経内分泌がん)

SCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)プロジェクトの詳細>>>

2016年11月20日にNHKスペシャルで放映されました。

分子標的薬、免疫治療薬「効果のある人」は

オプジーボ(小野薬品工業)は悪性黒色腫と非小細胞がん、腎がんに使われていますが、治療効果がある人は、全体の20%くらいです。

治療効果の見込まれる患者さんを投与前に見分けることができたなら、患者さんはもちろん医療者側も無駄な治療をしなくてすみます。

厚生労働省は、2017年2月から薬価を50%引き下げるものの、高額医療だけに医療費全体に関係してきます。 問題はどんなタイプのがんに奏功率が高いか、全く指標がないことが問題です。がん細胞の多様性の研究はこれからです。

がん治療で指標探しデータ蓄積

世界で指標探しが進む中、次に発売を予定しているMSD社の「キイトルーダ」では、その手がかりをつかみ、治療に生かすデータを蓄積しています。

キイトルーダは、悪性黒色腫への適用が2016年9月に承認され、年内にも発売される予定です。

オプジーボ同様、非小細胞がんなどに対しても申請中です。二つの薬剤は、がんに効く仕組みは同じで、がん細胞に直接作用するのではなく、免疫細胞からの阻害を避けている、がん細胞の阻害作用を無力化して、自己の免疫細胞で、がん細胞を排除する目的で投与します。

実祭には、がん細胞は「PDL1」という物質を出して、免疫細胞の「PD1」の タンパク質に結合して免疫細胞からの阻害を避けています。

「オプジーボ」「キイトルーダ」は「PDL1」との結合を阻害します。体内で正常な免疫機構を作ります。MSD社は、がん細胞の目印である「PDL1」の発現量に着目し、治療効果との関係を調べました。

これまでの治験で「PDL1」の発現が多い患者さんほど効果があることが分かり、欧州の学会で発表されてきました。

非小細胞がんの未治療患者さん305人を対象にした治験では、2 グループに分け、キイトルーダ群と標準治療の抗がん剤を投与し比較しました。

いずれもがん細胞の50%以上で「PDL1」が発現している患者さんを対象にした治験です。

その結果、1年後もがんの進行が止まったままの方はキイトルーダ群が48%、抗がん剤群は15%でした。生存率は、キイトルーダ群が70%、抗がん剤群は54%でした。

診断薬

同様に非小細胞がんの未治療患者さん123人を2グループに分けて、片方はキイトルーダと2種類の抗がん剤を併用して比較した治験もおこないました。

その結果、30%以上がんが縮小した奏功率は併用群では55%、抗がん剤単独群は29%と倍近い差が出ました。 MSD社は「PDL1を50%以上発現している方の割合は患者さんの約3割」と発表しています。

治療薬が、どの方に効果があるかを判断する指標となる検査薬は「診断薬」と呼ばれています。治療薬ごとに診断薬が異なると、医療費がかさむことになりかねず、共同して診断薬開発が進みつつあります。

「オプジーボ」は標準治療をした後の患者さんが対象ですが、「キイトルーダ」の今回の データは非小細胞がんの未治療患者さんを対象にしたもので、申請も既に治療をしている患者さんに加え、未治療患者さんを対象にしています。

申請が認められれば、非小細胞がん患者さんが最初に使える第一選択薬剤になるかもしれません。副作用がほとんどない、効果が持続する薬剤ができると良いと思っております。

プレシジョン・メディシンまとめ

各個人に応じたオーダーメイド治療ですが、プレシジョン・メディシン(精密医療)は、まだ治験段階で、保険適用ではなく、患者さんは自費負担の金額がかかるなど課題も、あります。

また全ての臓器でのがんは対象にはなっていません。手術ができる方は対象にはなっていませんので、標準的な手術を受ける現状は変わっていません。

現状は手術後のがん細胞の遺伝子を解析しても将来再発するかしないかは100%わかりません。臨床試験で奏効率(PR)が20%で抗がん剤が医薬品として認可されますが、プレシジョン・メディシンでの奏効率の目標値がわかりません。

分子標的薬をいつまで続けるのかは、はっきりわかってはいません。

遺伝子検査を受けても、自分に適した薬剤が見つからない患者さんもいます。

現在は薬剤の開発をはじめて早期に臨床試験に入ることも多く、その時、薬剤が見つからなくても、1年~2年たって、新薬が開発できることも考えられますが、そんなに早く開発、臨床試験がはじまると思っていません。

今後のプレシジョン・メディシンに期待したいと思いますが、いくらNHKでとりあげられたといっても数年前に放映されたP53を用いた遺伝子治療、患者さんのリンパ球を培養して体に戻す治療などは、どうなっているのでしょう。


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